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侍流 珈琲道

Interview by ARTIST-UNION

  • 冊子「GIZMO」インタビューより

     JR線亀戸駅の東口の改札を出ですぐ、目の前にあるビルをふと見上げると、必ずといっていいほど目に入ってくる場所。一度見たら忘れられないその名前に、何度も気になりながら通り過ぎた人も多いのではないだろうか。「珈琲道場 侍」― 知る人ぞ知る隠れ家的な喫茶店というには、すでに多くの雑誌やメディアで紹介されている店だが、コーヒーの味と独特の内装は28年前の創業以来変わることなく続いている。その『道場』の創設者でありマスターの近藤孝之氏に話を伺った。

    喫茶店が先・・・ではなく、道場が発想の原点

     「珈琲道場 侍」(以下「侍」と略す)といえば、まず最初にこのインパクトのある名前が話題となる。ネットでのクチコミを見ても、必ずといって良いほどこの名前から想像する店内の様子と、実際に足を運んだ感想が書かれていることが多い。全く別世界と思われる「喫茶店」と「道場・侍」、この発想はどこから来たのだろうか。
     「もともと実家が合気道の道場をやっていたんです。自分も大学のクラブ活動や養成所の指導に当たっていました。でもある時期家を出ることになって、それじゃぁ何か商売でもやりたいなと。それで、自分に身に付いているものは何かと振り返ってみると、自分には何もないと気づいたんです。何の技術もない。武道で得たものしかなかった。武道には、『礼・間合い・残心・くずし・呼吸・目付け』という六つの基本要素があるのですが、この武道を通して学んだ六つの教え、これだけは人よりちょっとは身に付いているかなと。それで、この要素を生かせる仕事はないかと思って」

    「珈琲道場」と大きく書かれた看板が行き交う人の視線を捉える

     自分が持っている「武道の教え・精神」を生かす仕事、それを求めた結果が喫茶店経営だったという。
    「例えばラーメン屋に来る人は、お腹が空いてラーメンが食べたいから来る、という人がほとんどですよね。でも喫茶店は違う。コーヒーが飲みたいだけじゃない。疲れたからちょっと休みたいとか、ゆっくり考え事をしたいとか、いろんなお客様が来る。だから、お客様一人一人に合わせた対応が大切なんです。このお客様は疲れているからそっとしておいてあげようとか、そういうふうに心配りをすることが必要になってくる。そういう仕事なら自分のやってきたことが生かせるのではないかと思って」
     喫茶店経営を新たな人生のスタートと決めると、それから仕事を辞め一年間をかけて喫茶店めぐりを行った。一日10件を目標に全国喫茶店をめぐりながら、自分がどんな店を持ちたいかを探っていったという。

  • 一年間の喫茶店めぐりの末に見つけた、もう一つのこだわり

    来店客にとても人気のあるこだわりのロッキンチェアー

     「侍」で、店名や店内の鎧と同じぐらい話題になるのが、カウンターに並んだロッキングチェアーである。心地良い揺れは客の間で評判だが、そもそもなぜロッキングチェアーにしたのだろうか。
    「喫茶店めぐりをしていて気づいたんですが、どんなりっぱな店も椅子はたいてい同じなんですよね。それであるとき公園でブランコに座りながら一服して、どんな店がいいかと考えながら、あれ?揺れるって面白い、ブランコって良いんじゃないかって。そこからロッキンチェアーを思いついたわけです」
     アイデアは決まったものの、実行するにはやはり勇気がいったという。
    「当初、ロッキングチェアを採用しているお店はありませんでした。データも資料も全く無し。喫茶店めぐりをしている時に、店のオーナーに何度か意見をきいてみましたが、『揺られながらコーヒーを飲んで美味しいと思います?』というような反応だった。やはり素人の考えなのか・・・と諦めかけたんですが、思い切って採用することにしました」
     ロッキングチェアーは場所をとるため席数も制約されるなど、デザイン上の問題もある。それでも、近藤氏は自分の良いと感じたものにこだわり続けた。

  • コンセプト、道具はそろった それでも一番大切なのはやはり人

    棚には一つ一つ違ったカップを用意。来店客は好きなカップを選ぶこともできる。

     コンセプトや内装が個性的な店は、たいていその評判だけで終始してしまうことが多いが、「侍」においては、コーヒーの味とサービスの良さにも定評がある。
    「ロッキングチェアや刀、そういうのは話題性としては面白いけど、それだけでお客様はよべない。そこで気づいたのが「動(どう)」に勝るものはないということ。動というのは、お店でいうなら動き、動きというのはスタッフ、つまりそこで働くスタッフにつきるということ。それが一年間喫茶店めぐりをしていて気づいたことでした」
     武道の精神が根底にある喫茶店経営。だからこそ、サービスへのこだわりも徹底している。 「喫茶店の場合、どんなにコーヒーが美味しくても人が駄目ならお客様に来てもらえません。そこで働くスタッフが、いろんな目的で来て下さったお客様、一人一人にあった対応をすることが大切」
     例え同じお客様であっても、毎回同じ応対で良いとは限らない。その時の相手の様子によっても変わってくるという。 「『眼力』といいますね。前回満足してお帰りになったお客様に、次に来たときも同じ応対で良いとは限らない。その日の体調や様子、そういものを瞬時で見抜けないと」

  • ホームページを開いたのはお客様の声がきっかけ

    「和」と「洋」の雰囲気が調和している店内

     メディアで扱われることも多い「侍」だが、意外にもホームページを持ったのは最近のことである。
     「今までそういうもの(ホームページ)は、一部の人しか見ないものだと思っていたんです。でも、お客様と話していて、『亀戸にはよく来るけど、この店いつ出来たの』と聞かれることがたまにあって。『前から気になっていたけど入りづらくて』といって、4年目にやっと来てくれたお客様などもいて。そういう方が結構いるんです。二階にあるからなんですよね。だからホームページを作って店内の様子とか見せて、そういうお客様にもっと来てもらえるようにと思って」
     接客やサービスに対して仕事という概念を超え、「相手の気持ちを察してそれに応じた対応をする」ことに、真摯に向き合っている人である。30年もの経営の間には、もちろん辛いこともたくさんあったという。しかし、そんなことを少しも感じさせず、最後まで気さくに生き生きと語ってくれた。
     最後に、将来の夢について訪ねると、「来店したお客様がお店を出たとき、ふと後ろを振り向いて、上を見上げて 『感じの良い店だったな・・・また来たいな』と、そう思っていただければ、そういう場所であり続ければ・・・幸せです」

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